医師の悩みとは何か

医師はロボットではありません。ひとつの「職業」です。医療に対する高度な知識と技術を持っていることは当たり前です。それが「仕事」なのです。

プログラマーがプログラムに対する知識を持っているように、医師は医療に対して、人の身体に対して、私たちよりも特化した知識を持っています。それは当たり前のことですが、なぜか私たちは、「医師」は完璧で、自分が求める健康への「答え」を即座に答えてくれなければ困るという具合に考えているものです。医師が高給であることも相まって、「完璧なことが当たり前だ」と考えているのです。

そのような私たちの「期待」は、ある意味では医師にとって負担になっていることは間違いないでしょう。人の身体はそんなにヤワなものではなく、ちょっとの怪我やちょっとの病気では簡単に命が散りはしないのですが、ニュースを騒がせる医療ミスや、医師の不正など、「病院」という得体の知れない存在自体に過敏に反応してしまっているものなのかもしれません。仕事だから、人だから「ミス」が許されるわけではないのですが、医師にも人格はあり、その日の体調があり、さまざまに思うところはあるのです。それでも日々医療に取り組むのが医師であり、体調の異変を訴える私たちの相手をしなければいけないのです。

「診断」とはある意味でのコミュニケーションです。コミュニケーションは相手との意思疎通です。「ここは痛いですか」と聞いて、「痛いです」と答えたとして、それが「嘘」であればもう為す術はないのです。私たちは医師に対して自分の体調を的確に伝えなければいけないのですが、なぜか「隠す」ことも時にはあるかもしれません。「このような答えをしたら重大な病気と診断されてしまうのではないか」と考え、そのような反応に出てしまうのです。ですが、それでは正しい診察ができないのです。これも医師の悩みです。質問したことに対してしっかりと答えてくれなければ、正しい診断などはできないのですが、病院嫌いの人は重篤な病気と診断されてしまうのが嫌であるため、答えをごまかしてしまうのです。

医師は万能ではありません。顔色ひとつ見ただけでは、その人の本当の症状、抱えた本当の病気には辿りつけないのです。「正しい診察」は、患者の協力があってはじめて成り立つものです。それがなければ、どのように相手をしても診断などできません。

医師だって人間です。心があり、機嫌もあります。ですが仕事として医療に携わる以上、どのような相手に対してもしっかりとした診断を下す必要があるのです。その妨げになるようなことは、やはり気分がいいことではないでしょう。

医師だからといって特別な悩みがあるわけではないのです。私たちと同じ人間だからこそ、私たちと同じように悩むのです。私たちが日々抱くようなストレスを抱えるものであり、私たちと同じように喜んだり落ち込んだりするのです。「医療」という簡単には理解することができないものに関わっていて、且つ人の健康を左右する職業であるから人から穿った見方をされることもありますが、その実私たちの仕事となんら変わりはない悩みがあるものです。患者さんに対しての悩み、職場に対しての悩みなどです。

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